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クラウド会計ソフトを利用規約から考える

 当論文は、2016年10月に執筆したものです。利用規約等の引用は当時のままです。

1はじめに

 クラウド会計ソフト(注1)に関する関心が中小事業者を中心に広がりつつあり、100万を超える事業所(注2)がすでに導入していると言われている。
 私たち税理士業界でも大きな話題となりweb上や各雑誌等においても様々な議論があるが、「クラウド会計ソフトの導入で記帳代行が不要となる」と税理士・会計事務所のビジネスモデル崩壊の危機を煽るものや、それぞれの機能の比較や問題点、既存の会計システムとの比較におけるメリット・デメリットの紹介が主な内容である。
 クラウド会計ソフトは、これまでの一般的な会計ソフトと異なり、その帳簿データが「物理的」に事務所内部で完結するものではない。Web上、すなわち運営会社のサーバ上にデータを直接入力(又は送信)し、帳簿を作成していくのである。したがって、従来の会計ソフトとは一線を画するwebサービスの一つとして提供されていることから、その理解や導入に戸惑いがあるように感じられる。
 筆者は、クラウドシステム(注3)一般(ファイル同期システムなど)については、個人的に便利に活用している。振り返ってみると、クラウドシステムやソーシャルネットワーキングサービス(注4)(以下「SNS」とする)の黎明期においては、そのサービスの利用にあたって画像や文章等の著作権と利用規約の関係が問題となってきた。
 しかし、クラウド会計ソフトについての議論をみると、その肝心の利用規約について検討されているものがほとんど見当たらない。個人的利用が中心となるSNSやファイル同期システムでさえ著作権等と利用規約の問題については利用者から厳しく追及されたにもかかわらず、である。
 この問題を、クラウド会計ソフトの問題に引きつけて考えてみると、非常に大きな問題が浮かび上がってくる。つまり、クラウド会計ソフトの帳簿データは利用規約上「誰のものであるのか」という問題であり、同時に、税務調査等において、納税者に不利益な活用をされる可能性はないのか、という問題である。
 その観点から5つ(注5)のクラウド会計ソフトの利用規約を検討した。今回は利用規約上、文理的に明確に問題があると思われる(株)マネーフォワードの「MFクラウド会計」とfreee (株)の「freee」について、質問し回答を得た。したがって、本稿では、この二つの利用規約の問題点に光をあて、検討を試みる。
 

2、クラウド会計ソフトが注目される理由

 クラウド会計ソフトといっても、サービスごとに異なる機能が提供されているため、一概に整理できないが、特徴を抽出するとその注目される理由は、大きく分類すると四点に集約される。
 第一は、クラウド会計ソフトはあらゆる端末から、インターネットに接続できる環境さえあれば、常時入力可能であることである。webブラウザ(注6)上で入力できるため、専用ソフトを必要とせず、windowsやmac(注7)でも区別無く利用できる。近年、フリーランスの個人事業者などでもmacユーザーが増加していたが、macでは会計ソフト自体が少ないことから、待たれていたものであるといえよう。
 第二は、帳簿データ消失に関するリスク管理である。東日本大震災で事務所のパソコンに保存していたデータが根こそぎ消失した状況を目の当たりし、事務所以外のクラウド上に「物理的に」データを保管することができるためである。
 第三は、金銭的側面である。クラウド会計ソフトの月額基本料は、廉価なプランも用意されており、月額2000円程度で使用可能なサービスも提供されている。
 第四は、記帳入力事務の大幅削減である。クラウド会計ソフトのいくつかは、帳簿データをインターネットバンキング、クレジットカードの利用明細書などと連携させることができる。これにより、入力作業を行わなくても利用明細書の内容を自動的に仕訳に変換し、帳簿に記帳される。また、その仕訳が間違っていた場合でも、それを修正することによりAI(人工知能)がそれを記録し、同様の仕訳については、次の取り込みからは修正したもので記帳される「成長」という特徴がある。また、銀行の通帳やレシートをスキャンして読み取るなどの機能が付随しているサービスもある。
 筆者は、「MFクラウド会計」と「Freee」を顧客の関係で利用したことがあるが、操作上の問題はあるものの簿記を十分に理解していなくても入力できることや、インターネットバンキングと連動するシステムは便利であり、この分野における大きな技術革新であると考える。
 

3、クラウド会計ソフトの規約上の問題点

 上記のように一見すると、利用者・納税者にとって大きなメリットが感じられるクラウド会計ソフトであるが、その利用規約に目を通すと、webサービス分野における特有の問題を多く孕み、さらに複雑な権利関連から、納税者に大きな損失を与える可能性があることを指摘しなければならない。
 結論から言えば、第一に、「MFクラウド会計」の利用規約からは、クラウド上で入力した会計帳簿のデータの帰属権、処分権(ライセンス)を運営会社に付与するという条項があること、第二に、「MFクラウド会計」及び「freee」の利用規約からは、情報開示の面について、帰属権の問題と絡み税務調査で利用されるおそれがある、という大きな問題があるということである。
 これまでも、手書きの記帳からオフコンやOCR、会計ソフトの利用と記帳実務は発展してきたが、それらの段階と質的に違う問題を有しているサービスが存在するのが、クラウド会計ソフトの現状である。
 上述したように、利用規約上の問題で重要なのは、「権利の帰属」及び「情報の開示」についてである。以下、具体的に検討していきたい。

(1)権利の帰属 「MFクラウド会計」固有の問題

 MFクラウド会計の利用規約、「第18条 権利の帰属」の5項及び6項は以下の通りである。

5 登録ユーザーは、送信データ(注8)について、当社に対し、世界的、非独占的、無償、サブライセンス可能かつ譲渡可能な使用、複製、配布、派生著作物の作成、表示及び実行に関するライセンスを付与します。
6 登録ユーザーは、当社及び当社から権利を承継し又は許諾された者に対して著作者人格権を行使しないことに同意するものとします。

 この5項は、SNSである2008年のmixiの利用規約改訂の際、ユーザーの大きな反発を招いたものと類似している。具体的な内容は以下の通りであった。
2008年3月3日、mixiは利用規約18条の内容変更を行った。

1. 本サービスを利用してユーザーが日記等の情報を投稿する場合には、ユーザーは弊社に対して、当該日記等の情報を日本の国内外において無償かつ非独占的に使用する権利(複製、上映、公衆送信、展示、頒布、翻訳、改変等を行うこと)を許諾するものとします。
2. ユーザーは、弊社に対して著作者人格権を行使しないものとします。

 この規約に対し、ユーザーが大きく反発し、以下のように変更されることとなった。

1. 本サービスを利用して投稿された日記等の情報の権利(著作権および著作者人格権等の周辺権利)は、創作したユーザーに帰属します。
2. 弊社は、ユーザーが投稿する日記等の情報を、本サービスの円滑な提供、弊社システムの構築、改良、メンテナンスに必要な範囲内で、使用することができるものとします。
3. 弊社が前項に定める形で日記等の情報を使用するにあたっては、情報の一部又は氏名表示を省略することができるものとします。
4. 弊社が第2項に定める形で日記等の情報を使用するにあたっては、ユーザーが設定している情報の公開の範囲を超える形ではこれを使用しません。

 さて、この利用規約の雛形はどのように考えられているのであろうか。
 『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方』では、アップロードされたデータについての利用規約の作り方の第3の例の雛形として「【条項例】ユーザーは、本サービスを利用して投稿その他送信するコンテンツ(文章、画像、動画その他のデータを含むがこれに限らない)について、当社に対し、世界的、非独占的、無償、サブライセンス可能かつ譲渡可能な使用、複製、配布、派生著作物の作成、表示及び実行に関するライセンスを付与します。(注9)」と紹介している。
 そして、上記条項例について「③著作権を譲渡してもらう」との見出しで、「書き込み・アップロードされたコンテンツに関する財産的権利を、まるごとウェブサービス事業者のものにしてしまいたいときのパターンです。後述する「著作者人格権」にさえ配慮すれば、ユーザーに気兼ねなく、かつ独占的にコンテンツを利用できるようになるため、コンテンツが集まればビジネス上強力な武器となりえます。また、第三者への事業譲渡にあたっても、ここまでの権利を確保していれば、問題にはなりにくいものと考えていいでしょう。しかし、ウェブサービス事業者にとって利便性が高い反面、「ユーザーが権利の対価に相当する利益を得られる」といった特別の事業がない限り、ユーザーからの強い反発を招くことが予想されます。」と解説されている。
 つまり、全面的に財産的権利を運営会社に与えることを目的とした利用規約となっている。mixiの場合は、SNSにアップする日記の文章、画像などであるが、MFクラウド会計はクラウド上に入力した送信データ(帳簿データ)となる。利用規約を解説通りに解釈するならば、一切の権利の帰属をMFクラウド会計の運営会社である(株)マネーフォワードに与える、ということになる。インターネット上の送信データ(帳簿データ)について、民法上の所有権、著作権については、かなり複雑であるため本稿の射程外であるが、送信データ(帳簿データ)の最終処分権、帰属権は運営会社に帰属すると素直に捉えるのが妥当であろう。
 この利用規約第18条第5項及び6項につき、筆者がMFクラウドのサポートに質問したところ、帳簿データの著作権、所有権はユーザーのものであるが、そのライセンスを付与するという規約なので、帳簿データは事実上、運営会社のものとして利用することができる、という回答であった。
 多くのMFクラウド会計の利用者が、これまでの会計ソフトと同様に自社の帳簿を作成していると考えていると思われる。しかし、MFクラウド会計を利用すると、利用者はその送信データ(帳簿データ)については、運営会社に「ライセンスを付与する」という利用規約になっている。つまり、運営会社は、送信データ(帳簿データ)を、いつでも自由に、あらゆる形で「処分」することが可能となっているのである。

(2)情報の開示・共有条項について

①MFクラウド会計について
この上述の「処分」について何が危惧されるのか、MFクラウド会計の利用規約の第23条(情報の開示・共有)を見てみたい。

第23条 当社は、登録ユーザーの情報を、その承諾がない限り、第三者に開示または共有することはありません。ただし、以下の場合は例外とします。(…中略…)
(6) 法律に基づき裁判所、警察等の公的機関に開示を求められた場合

 つまり、法律に基づき「公的機関」に開示を求められた場合には、登録ユーザーの情報を開示する旨が明記されている。
 この条項の「公的機関に国税庁、税務署等は含まれるのか」という筆者の質問に対しては、「含まれる」というサポートからの回答であった。また、ユーザーの同意なしに帳簿データが開示される可能性はあるのか、という質問にたいしては、可能性は利用規約上ありえる、ということであった。
 
②freeeについて
 次に、Freeeの利用規約の開示条項の第25条「情報管理」第1項について検討する。

 第25条「情報管理」
当社は、会員情報について、会員の事前の同意を得ずに第三者に開示しません。但し、次の各号の場合はこの限りではありません。
(1)法令または公的機関からの要請を受け、要請に応じる必要を認めた場合

 上記条項は、MFクラウド会計と同様に、「公的機関」への開示が明記されている。この条項への質問のfreeeのサポートの回答は、①「公的機関」には税務署も含まれること、②開示するかどうかは、「個別の判断」によるということ、③開示情報には、帳簿データも含まれること、④しかし、これまで税務署から開示を求められた例はない、との回答を得た。
 上記回答を検討してみたい。税務調査は周知の通り、①国税犯則取締法、②国税通則法、③国税徴収法(捜索)の3つに区分される。国税犯則法は当然、裁判所からの令状を伴った調査となり、情報開示は強制となるため「個別の判断」は必要がない。③の捜索に関しては、帳簿類を押さえるというより、差押財産の選定が主眼となることから、可能性としては考えにくい。そうすると、税務署から請求される「個別の判断」を伴う情報開示は、国税通則法に基づく税務調査に関連した反面調査として「納税者の同意を得ず」開示される可能性が最も高いと思われる。

(3)税務調査への利用の可能性

 以上検討してきたように、上述してきた二つのクラウド会計ソフトは、その利用規約と質問回答を見ると、その利用に関しては大きな問題があると考える。
 浦野広明教授は、「租税関係には、課税庁の立場か、納税者の側の立場かのいずれしか存在しない」「したがって、課税庁から距離を置いたものとしてとらえたときに初めて、税理士は、理念的にも実践的にも弁護士と同様に依頼者(納税者)の人権擁護を目的とする職業となり、納税者の権利擁護・権利救済に深いかかわりを持(注10)」つ、と述べられている。このような視点からこの問題を考えてみたい。
 これまでの手書きの帳簿の時代から、パソコン上の会計ソフトに関して、「帳簿データが誰のものであるか」など問題にならなかった。帳簿は、記帳した事業者に帰属するのは明白だからである。したがって、納税者の同意無く帳簿を閲覧できるという事例はほとんど存在しなかった。
 現在の税務署の人員削減の流れから考えると、近い将来、より合理的、より効率的に税務調査を進めることが強調され、その一手段として、クラウド会計ソフトの調査への利用が視野にあがると思われる。筆者が税務職員であるとするなら、税務調査の際、クラウド会計ソフトの利用状況を確認し、あらゆる手立てを使って情報開示の先例をつくるであろう。税務調査において、金融機関などが預金情報を簡単に開示している例を考えると、運営会社が帳簿データを開示しないとは考えにくい。
 そもそも帳簿は、取引先や顧客情報など事業者にとって秘匿性の高いものであり、国家権力が安易に入手してよいものではない。法人税法、消費税法などの租税実体法に帳簿の備付けの定めがあるとはいえ、自ら記帳した帳簿等の基礎資料を基に税額を確定することが申告納税制度に基づく申告納税権であり、日本国憲法の国民主権原理の税法的表現・展開(注11)と考えられることから、税務調査による処分は、あくまでも第二次的・補充的な位置づけにすぎない。税務当局が、納税者の同意を得て税務調査を行い、質問検査権に基づき納税者の同意を得て、極めて営業秘匿の高いデータである帳簿を参照することはあり得よう。
 しかし、クラウド会計ソフトについては、その利用規約上、帳簿データについては運営会社が自由に「処分」でき、納税者の許可無く税務当局へ帳簿データが丸ごと開示される可能性がある。それに留まらず流出可能性の高い電子データとして税務当局が留置く可能性もあり得るのである。
 以上のように、このクラウド会計ソフトの現在の利用規約は、大きな問題を抱えており、納税者の権利擁護との関係で軽く考えてはならないものなのではないか。

4最後に

 検討してきた2つのクラウド会計ソフトの利用規約については、そのデータをビックデータとして加工利用しようとする意図があったと考えられるが、それ以上のことを想定していたとは考えにくい。単純に、無用なトラブルを避けるためにWebサービスの利用規約のうち、もっとも強力な雛形的条項を導入したのであろうと推察される。しかし一般的なWebサービスの利用規約の雛形の導入については、クラウド会計ソフトという性格上、帳簿データの帰属権、情報開示についてはより慎重な利用規約が必要であるのではなかろうか。今回は、その他の運営会社に質問、確認することはできなかったが、その他のクラウド会計システムの利用規約についても、同様の問題があると思われる条項が多数存在する。
 以上のように、クラウド会計ソフトの導入に際しては、利用規約を細部まで確認することが、これまで以上に求められるといえる。
 本稿では触れられなかったが、クラウド会計ソフトには、サービス解約後のデータの削除及び帰属、データのバックアップの免責等のその他の問題も存在する。
 筆者は、クラウド会計システムの自動記帳等のサービスについては、利用者・納税者にとって大きな利便性が有り、今後発展していくことを望んでいる。しかし、本稿で検討したように、帳簿データの最終処分権がクラウド会計ソフトの運営会社に帰属すること、帳簿データを税務署等に納税者の同意無く開示される可能性があること、この2点を解決することが重要であると考える。上述のSNSの利用規約改定においては、利用者の大きな反発により利用規約の見直しを行わざるを得なかった。利用者が拡大していくことが予想されるクラウド会計ソフトについても、税務調査への利用の利用者承諾条項の導入などの利用規約改定の交渉をおこなっていく必要があると考えるものである。

(注1) クラウド会計ソフトの仕組みや各種サービスの比較は、税経新報2014年1月号、相田英男先生「クラウドコンピューティングは会計業界を変えるか」を参照ください。
(注2)MFクラウド会計が40万、freeeが60万事業所と各サイトに記載されている。
(注3) クラウドとは、ソフトウェアやハードウェアの利用権などをネットワーク越しにサービスとして利用者に提供する方式を「クラウドコンピューティング」(cloud computing)と呼び、データセンターや、その中で運用されているサーバ群のことをクラウドという。IT業界ではシステム構成図でネットワークの向こう側を雲(cloud)のマークで表す慣習があることから、このように呼ばれる。インターネットから誰でも利用できるようなサービスやシステムを「パブリッククラウド」、大企業などが自社ネットワーク上で社員などが利用するために構築・運用するものを「プライベートクラウド」という。(IT用語辞典)
http://e-words.jp/w/%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%89.html
(注4)ソーシャルネットワーキングサービスとは、人と人とのつながりを促進・支援する、コミュニティ型のWebサイトおよびネットサービス。(IT用語辞典)http://e-words.jp/w/SNS.html
なお、具体的なサービス名はmixi、facebook、Twitter、Instagramなどである。
(注5)本稿の執筆にあたっては、クラウド会計ソフトのうち、(株)マネーフォワードの「MFクラウド会計」、freee(株)の「freee」、(株)パイプドビッツの「ネットde会計」、弥生(株)の「やよい」シリーズの利用規約を検討した。
(注6)具体的には、Microsoft社のインターネットエクスプローラー(IE)やgoogle社のChromeなどのソフトのこと。ブラウザとは、データや情報をまとまった形で閲覧するためのソフトウェア。単にブラウザと言った場合には、Webサーバからデータを取得して閲覧するための「Webブラウザ」(web browser)を意味する場合が多い。(IT用語辞典、http://e-words.jp/w/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%82%B6.html)
(注7)iPhoneを製作・販売しているapple社のパソコンのこと
(注8)MFクラウド会計利用規約第2条、定義において「登録ユーザーが本サービスを利用して送信するコンテンツ(数字、数式、文章、画像、動画その他のデータを含みますがこれらに限りません。)を意味します。」とあるため、帳簿データも含まれる。
(注9)雨宮美季他『良いウェブサービスを支える利用規約の作り方』76ページ(技術評論社、2013)
(注10)浦野広明『税が拡げる格差と貧困』83ページ(あけび書房、2016)
(注11)北野弘久『税法学原論〔第六版〕』259ページ(青林書院、2007)