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日税連「TPP協定に関する報告書」からTPP協定を考える

税経新報2016年12月に掲載された論文です。
当時、「TPP協定」が大きな問題となっており、税理士などの士業にも影響する可能性がありました。
そこで、この問題に関して税理士会関連のものを読んでみると、税理士に影響がないことがわかると、途端に関心を失い、TPP協定そのもについて、態度を表明することもありませんでした。
そこに疑問を感じ、本稿を執筆しました。

はじめに

TPP協定(環太平洋経済連携協定)は、日本の経済主権を脅かす大きな問題点を内包している。これは、私たち税理士にとっても他人ごとではない。TPP協定は、昨年10月の大筋合意、今年2月の12カ国による署名式を終え、残念ながら、11月4日、衆院TPP特別委員会国会で強行採決された。手続的に問題があり国会が混迷しているが、今後の状況は予断を許さない2016年11月10日現在)。
税経新報では、税理士法・TPP特別委員会の坂本会員が2014年10月号に「TPPについての一考察」として報告されている。その後、士業分野がネガティブリストに掲載されることが明らかになり、それを受け、2016年8月27日「TPP協定に関する報告書」が日税連から発表された。TPP協定については、国会論戦などでその問題点が大きく明らかになっている。本稿では、TPP協定の概略をみながら、この「報告書」について検討を試みたい。

1、TPP協定の主要分野の状況

TPP協定は、その内容も、交渉改定も、手続的にも、問題点だらけである。その概略を主要分野に限って俯瞰してみたい。

(1)交渉過程の異常な秘密主義

TPP協定文は、英文で本文、付属文書と合わせると8400ページとなる膨大なものである。しかし、安倍政権は、2016年10月の国会審議中でも、和訳は2000ページしか公表しなかった。さらに翻訳文には誤字脱字どころか、意味を反対に翻訳している箇所や意図的に「誤訳」が疑われる箇所もあるのではと指摘(※1)されるレベルの代物であった。和訳の正文全文がないまま国会審議が行われるのは前代未聞であり手続的にも大きな問題がある。
また、TPP協定の付属文書は、「サイドレター」と呼ばれる二カ国間取り決め文書があり、日米間では「日米並行協議」「実施計画」(※2)「承認手続要求」(※3)といった協定文を補強する文書も存在する。これらも全文公表、翻訳されていないままであった。
これらの文書は交渉過程において、国権の最高機関である国会においても、秘密保持を理由に黒塗りの文書、「のり弁」と揶揄されるものが「公開」されるという状況であった。このような戦後の日本の歴史のなかでも異常な状況で交渉が進められ、この国会で承認されたのがTPP協定である。

(2)各分野における問題

次にTPP協定で大きな問題となっている主要な3つの分野について、ポイントを絞って検討したい。
【農業分野】
日本の農業は、自民党の政策により長期間にわたり後退の一途を辿ってきた。これにより日本の農業は大きな打撃を受けており、食糧自給率は、39%(2015年・カロリーベース)まで落ち込んでいる。
TPP協定では、日本に対し関税撤廃へ向けたさらなる自由化義務を課している。全会一致の国会決議「TPP協定交渉参加に関する件」(2013年3月15日)において、「聖域」とされた重要5項目(米、小麦、豚肉・牛肉、乳製品、甘味資源作物)についても、関税品目数594品目中数170品目(28.6%)で関税撤廃が義務づけられ、さらに協定発効7年後以降、さらなる輸入規制緩和協議が日本に対してのみ義務づけられる(表1)。その他、輸入食品の安全性を確保するうえで不可欠な食品安全基準制度、衛生植物検疫制度を骨向き・空洞化する、等々日本の農業を破壊し、国民の食の安全を脅かす規制緩和が目白押しである。
10月の国会で政府は、輸入米の売買同時入札(SBS)(※4)で商社が卸売業者に渡す「調整金」が輸入米の価格引き下げに用いられていた事実を認めた。政府はこれまで、TPPで輸入米が増えても、SBSという国家貿易が維持されるから国産米価格への影響はないと説明してきにもかかわらずである。
JAの組合長アンケート(日本農業新聞1月4日付け)では、92%が阿倍政権の農政を評価せず、95%がTPPに影響を受けると回答するなど、この影響は計り知れないものとなる。

【医療分野】
TPP協定では医療の章は設けられていないが、薬価制度、新薬の特許やデータ報告についてはその対象とされている。薬価制度については、米国の製薬会社がTPP協定により各国の薬価決定に介入する制度的根拠と手段を与えることとなる。薬価の国際比較は、英を100とすると、仏110、独168、日本220、米289である。(※5)
現在でも高い日本の薬価であるが、さらに高い米国の薬価基準を押しつけられることになるといわれている。これにより、高すぎる薬価が国民の医薬品へのアクセスを妨げ、公的医療保険制度財政を圧迫するおそれも指摘されている。また、米国の製薬会社が多数を握る特許の期間延長の問題もある。特許期間延長により、新薬の価格が高額となり、巨大な製薬会社の独占的利益は強力に保護されることになる。これに関しては「国境なき医師団」が、安価な医薬品を手に入れることが制限され何百万の人に影響を及ぼす危険な協定だと批判している。

【金融サービス・保険】
金融サービス、保険・共済分野は協定文11章において定められている。保険分野では、かんぽ生命や共済などの共済保険の優遇措置を撤廃させ、米国保険業界が大規模に参入してくることになる。具体的にターゲットとなっているのは、JA共済の運用資産(52.3兆円)、JA共済の長期共済保有契約高(281.2兆円)、ゆうちょ銀行の運用資産(205兆円)、かんぽ生命の運用資産(85兆円、いずれも金額は平成26年)などである。これらを米国金融機関の株式保有による支配、資産運用として活用するという目的があると指摘されている。(※6)

以上のようにTPP協定は、農業、医療、保険という国民の生命、財産に関わる主要な分野で日本の経済主権を侵害するものである。

(3)TPP協定の米国多国籍企業と日本多国籍企業・独占資本の動機

戦後から「米国いいなり」と言われる自民党の政治姿勢は今日に始まったことではない。しかし、上述してきた内容と規模を考えると、TPP協定は国内市場を空前の規模で米国に明け渡すものとなっている。これについて、米国と日本の多国籍企業の動機を考えたい。

①米国政府、米多国籍企業の動機
オバマ大統領は、2010年の一般教書演説において、今後五年間で輸出を倍増するという「国家輸出戦略」を提唱した。同年、横浜で開かれたAPECでオバマ大統領は「国外に10億ドル(約825億円)輸出するたびに、国内に5000人の職が維持される」と講演した。行き詰まる米国経済を、アジア地域などへの輸出拡大によって米国国内の雇用を維持すると訴えている。(※7)
たとえば、農業分野の関税撤廃は、米国穀物メジャーの野望であることは誰もが認めることであり、当人たちも言及している。米通商代表部下の「貿易のための農業政策諮問委員会」の文章では、TPP協定を「どの物品も除外しなかった…TPPの適用範囲を賞賛する」と書き、「アジア太平洋地域ほど大きいチャンスは他に存在しない。この地域には、2030年までに32億人の中間層の消費者が住み、主要穀物、生鮮果実・野菜、乳製品、肉などの世界最大の購買者となる。」と米国の農産物の一大マーケットが生まれたと謳っている。米農務省は、2年前にTPP協定締結後の予想として「加盟国の間で農産物の貿易が増える分の7割を日本が輸入し、3割を米国が輸出するだろう」と分析したが、そのようになっていくであろう。(※8)
しかし、雇用問題については、実際の試算を見ると(表2)、米国でも雇用が増えるとは言いがたい。米国でTPP協定に反対する運動が広がっているのは、「北米自由貿易協定(NAFTA)」(1994)の失敗経験を元に、この本質を見抜いているからであろう。当時も景気も雇用も上向きになると宣伝されていたが、実際に潤ったのは一部の高額所得者と多国籍企業だけであった。米国政府が雇用問題を持ち出すのは、あくまでも選挙対策や支持率対策に過ぎない。

したがって、米国政府は、世界市場において米国多国籍企業の利益を追求するバックアップ体制の構築を実現するため、全世界規模で二国間協定やTPP協定のような多国間の貿易協定を提携しているのである。

②日本政府、日本多国籍企業の動機
では、日本の多国籍企業がTPP協定に加わる動機はどこにあるのであろうか。
根本的には、日本の主権を明け渡し国民を犠牲にすることと引き替えに、世界市場において米国につぐ「サブリーダー」として、利益を得ようというのが基本的な動機であると言われている。(※9)
前述した医療分野について、日本の医薬品市場は米国など外資系製薬会社がTPP協定によりますますシェアを拡大していくが、日本の製薬会社は、サブ(二番手)として、国内およびTPPの締結国先で利益をあげていくことを狙っている。(※10)
また、TPP協定で米国の押しつけたルールであったとしても、それが利用可能となる。例えば日本のインフラや原発を輸出していく成長戦略との関係で、日本の原発の輸入を決めた国の政府が、危険だからと契約を破棄するとなったとき、ISDS条項(※11)を発動させ訴えることも可能になる。このように、世界市場における日本多国籍企業・独占資本の利益を、米国と同様にバックアップしようとしているのが、阿倍政権の立場である。
当然、日本の経済的土台は国家独占資本主義であり、阿倍・自民党政権が日本多国籍企業の代弁者であることから考えると、その利益追求のために、TPP協定を推進するのは当然であろう。

このように、阿倍政権は、TPP協定を「経済の発展の基礎」「国益」であると述べているが、その本質は、日米多国籍企業の利益のためのものである。だからこそ、交渉過程も公開しない、問題点が全国民に明らかになる前に国会で強行採決したのである。

2、税理士制度に関わる問題点

次にTPP協定と税理士制度について検討を試みたい。

(1)税理士制度に関わる経緯

2011年のTPP交渉参加当初、医者、会計士、弁護士等といった資格、免許にかかわるものについては、相互承認制度が議論される可能性が指摘されていた。相互承認とは、例えば米国で取得した弁護士資格に基づき、日本でもすぐに弁護士資格を有するものとして、日本国内において弁護士活動ができる、という他国の資格を自国での資格と同様にみなす制度である。
2012年3月には、相互承認については「議論はない」と変化し、2015年10月の大筋合意で留保規定が「ネガティブリスト」方式であること及びそこに士業分野も含まれていることが明らかとなった。(参考-表3)
この流れを受け日税連は、2016年8月27日「TPP協定に関する報告書」(以下「報告書」とする)を公表した。そのなかで、「実際の交渉に入ってからは、専門家資格の相互承認に係る情報の収集に努め、その結果、概ね影響は懸念されないと考えら」ると結論付けている。

(2)ラチェット条項と税理士制度
税理士制度が影響を受けるのは、TPP協定文第10章「越境サービス貿易」であるが、これは多種多様な業態がその対象とされている。例えば輸送、金融、保険、通信、流通、旅行、飲食店、医療、教育・研究、建設、法務や会計、情報処理、理美容や冠婚葬祭も「サービス」に含まれる。具体的には、これらのサービスは、自由貿易の基本である内国民待遇、最恵国待遇(※12)、市場アクセス等の義務が課されることになる。
このサービス貿易や金融の分野では、「ラチェット条項」というものが存在する。
これは、TPP協定発効後に規制を強める国内法規は、条約違反とする規定である。小泉・自民党政権から規制緩和の流れが大きく進んでいるが、あらゆる分野で規制緩和が要求されることになり、規制強化による産業、労働者、農業等の制度の保護が、今後、日本の国会で立法されたとしても条約違反となる可能性がある恐ろしい条項である。
今後行われる税理士法の改定もこの「ラチェット条項」の対象となる。「報告書」では、

「今後、税理士法改定等について検討する際には、TPP協定において義務付けられている規定(内国民待遇、最恵国待遇、市場アクセス、現地における拠点等)を考慮のうえ検討する必要があることに留意が必要です。一方、前述したラチェット条項については、これらの義務規定に適合しない現在留保措置について適用されるものであり、すなわち、税理士サービスについては、市場アクセス及び現地における拠点との関係で、「税理士サービスを提供しようとする自然人は、日本国の法令により税理士としての資格を有しなければならず、その所属する税理士会の地域内に事務所を設置しなければならない。」、「税理士サービスを提供しようとする企業は、日本国の法令に基づく税理士法人を設立しなければならない。」とされている内容についてTPP発効後に規制強化することができないということにすぎません。」

と述べられている。
つまり、市場アクセスについては、例えば、上記規定の中に「1年のうち日本に180日以上滞在するものとする」という条文を入れることはできない、ということである。
日税連規制改革対策特別委員会に問い合わせたところ、「ラチェット条項」の対象となるのは、上記のものだけであり、例えば、税理士法の改正において、例えば公認会計士の資格付与について、税理士試験の税法1科目合格とするなど規制強化をする場合などは対象とならない、とのことであった。
したがって、現時点においては、TPP協定の該当する規定は、税理士制度については大きな影響がないとする日税連の解釈は妥当であるかのように見える。これについては、最後に検討を加える。

(3)外国法事務弁護士制度問題

TPP協定と関連で検討しなければならないのは、国内における士業に関する規制緩和の流れである。これは、今後の税理士の規制緩和との関係で参考になると思われる。
自民党・小泉政権から規制緩和の流れが大きく広がり、士業もその範囲にあがっている。1997年12月の行政改革委員会は、規制緩和策の最終意見において、士業について、資格制度及び業務独占によるムラ社会が形成され、サービスの低下、価格の高止まりにより国民が不利益を被っていると指摘し(※13)、規制緩和の対象としている。この流れのなかで、2014年の閣議決定された「規制改革実施計画」では、「外国法事務弁護士制度にかかる検討会」(以下「検討会」とする。)を設置することが決定し、すでに議論が終了し報告書が提出されている。
検討会の目的は、①外国法事務弁護士(以下「外弁」とする。)の資格付与について職務経験要件(※14) を緩和すること、②外弁事務所設立の要件緩和(※15)の2点である。
①について検討したい。
「検討会」の議事録を詳しく辿っていくと、その議論の稚拙さに驚きを禁じ得ない。外弁について、具体的に規制緩和を要求しているのは、ごくわずかの一部の外弁事務所所属の委員のみであった。
この職務経験要件緩和の根拠としては、外弁登録にあたって職務経験要件が厳しいため、外国で資格取得後、日本ですぐに登録したくてもできない、日本に興味がある優秀な弁護士を逃している、というものであった。規制緩和を行い優秀な外国の弁護士が集まれば、競争力も高まり、国民も利益を得られる、ということである。しかし、具体的に外国で資格取得後に日本で即開業したいという具体例も数的根拠も示されないままである。
その一方で検討会に出席している経団連の委員は、この問題に関してとくに規制緩和の必要性を感じておらず、現制度で不自由すら表明していない(※16)。海外取引に関して、現地の法知識が必要とされる巨大企業の経営者たちでさえ、必要としない規制緩和が議論されているのである。
印象的なのは、検討会の議論で、経団連、日弁連の委員の発言を受け、職務経験要件の緩和は必要ないという流れとなったとき、外弁の委員が、「なんのための検討会なのですか?緩和の要否を議論する意味はない。規制緩和のための会議ではないのか」と発言し、積み重なった議論を白紙に戻そうとした部分であった。(※17)
この外弁の規制緩和における議論については、以下の点が重要である。
第一に、TPP協定においては、外弁はネガティブリストに加え規制緩和対象外としながら、国内法において規制緩和の議論が行われ、その方向に舵を取っているということである。この二枚舌的な手法は、今後の税理士を含む士業の方向性を予想させるものである。
第二に、外弁の規制緩和については、「規制緩和」という目的ありきのものであって、その実態は、国民の要求、実態から出発したものではない、ということである。経団連の委員さえ規制緩和の必要性を感じていないことから、「聖域なき改革」の名でたまたま外弁の規制緩和がターゲットとなったにすぎないと思われる。
第三に、いったん規制緩和の議論の土台に上がってしまえば、「規制緩和」という結論ありきの流れに逆らうことは容易ではないということである。結局、規制緩和の検討の対象となれば、要件の詳細は別にして、規制緩和の方向をするべきである、という結論になることは間違いない。
検討会の議論を見ると、外弁が国内法も取り扱えるようになる、つまり、日本で弁護士資格を取得したのと同様となっていく方向に舵がとられつつあるようである。

3 日税連の解釈の妥当性

以上のことを総合して考えてみると、日税連の「報告書」の見解は大きな問題が存在する。

第一に、TPP協定の「市場アクセス等の義務」以外はネガティブリストに掲載されたため問題がない、という前提条件を恩恵的に受け入れて良いのであろうか、という問題である。
日本国憲法の立場から考えると、そもそも主権は国家にあるのではなく、私たち国民に帰属するものである。日本がどのような法制度を制定し、どのような国づくりをしていくのは、日本国民の主権に属する問題である。したがって、日本の有資格制度も当然、日本国民の主権に関する問題であると言えよう。
税理士法の改定に関して、それを決めるのは私たち日本国民であり、たとえ一文であろうとも、その権利を侵害させてはならないと考える。TPP協定はその主権を侵害するものである。

第二に、TPP協定及び自民党政権の規制緩和の本質を願望的に軽く捉えてようとしていることである。税理士を含む士業関連は、付属書10-A「自由職業サービス」において、「今後も対話の機会を設けること」(※18)と明記されていることから、相互認証の可能性も含め、確実に再検討されるものである。さらに、相互認証を含め、今後どのような方向に舵が取られるかは明らかではない。また、外弁の規制緩和で明らかなように、士業に関する規制緩和を推進していくのが自民党の基本的立場であることはかわりがない。
関本会員の「TPPの違憲性について」(2013年8月号・613号)のなかで、「「税理士新聞」1361号(2011年12月15日号)で、アメリカのH&Rブロック社が、虎視眈々と日本の税理士業界を狙っていることを報道しています」と述べられている。TPP協定は、上述したように米国多国籍企業の野望実現が第一の主眼であり、その本質は「エンドレスの規制緩和」である。したがって、今回は実現しなかった規制緩和を次々と要望し、日本市場の開放を迫ってくることは火を見るより明らかである。日税連の税理士の独占業務保護という至上命題を百歩譲って認めたとしても、将来的な問題点を予想すれば、本来はその立場からであってもTPP協定については、反対するのが筋であろう。

第三にTPP協定全体の評価の誤りである。
日税連は、「報告書」でTPP協定を「TPPを含む経済連携協定等によるサービス貿易の自由化は、あらゆる分野で国際化が進展している現状において、我が国がさらなる経済発展を遂げるためには極めて重要になっています」とまるで政府広報のような評価を記載している。
中小業者への影響は本稿の射程外であるが、①多国籍企業は国際分業戦略をとっているため輸出とは無関係であること、②TPP協定で日本は「買い手」の役割が求められていること、③主要産業の輸出は増えず、中小企業はさらなる選別・駆逐過程へ進んでいくこと(※19)、などが指摘されており、国内政策の失政と相まってさらに厳しい状況に追い込まれていくことが予想される。
日税連のホームページのトップには「ご存じでした?税理士は共に歩むパートナーなんです。」と中小企業とともに歩む姿勢を強調している。我々の主要な顧問先である中小企業がこのような打撃を受けるTPP協定を「経済発展のために重要」と評価することは、日税連のそもそもの立場からも反するのではないかと思われる。

おわりに

以上のように、日税連の「報告書」については、その従来の立場と相まって一面的でありこのような視点でしかTPP協定を捉えることができないというのは、残念極まりない。税理士会は、弁護士会と異なり自治権を有していないところに大きな問題があるように思われる。TPP協定の交渉参加当初、士業の相互認証の可能性があり、日税連は焦燥したものと考えられる。しかし、今年に入ってから士業が「ネガティブリスト」に記載されることが明らかになってから、急速に安堵感が広がりTPP協定について関心を失っていたようである。それにしても、自らの独占業務以外の課題については無関係であるという態度を取ることは、納税者、中小業者からますます税理士の存在意義を疑われるのではないか。
政治情勢的には、TPP協定は強行採決されるようであるが、TPP協定の行く末は米国新大統領の公約遵守に期待するというのは、重ね重ね大変残念な状況である。

<脚注>
1、衆院TPP特別委員会参考人陳述での弁護士岩月浩二氏の発言
「ISDSは、国会で苦労して作った法律がたった三人の民間人(仲裁人)によって否定されるものです。そういうことが周知されず、国民的議論が全くされていません。委員会決議に反しています。情報を正確に国会につたえているのかという問題がISDSについてもあります。「間接収用」という概念があります。経済活動に対する規制措置が収用と同等程度に及ぶ場合、それに対しては正当な補償をしなければならない。この概念について政府の(TPP協定正文の)仮訳は「(公共目的の)差別的でない規制措置は、極めて限られた場合を除くほか、間接的な収用を構成しない」としています。「極めて限られた場合」とすごく狭いように翻訳していますが、原文は「イン・レア・サーカムスタンシーズ」「まれな状況」です。公共の福祉を守るための規制措置がどれくらい限定されるかは重要な問題なのに、誤訳で議論を誤った方向に導こうとしているのではないか。」(しんぶん赤旗2016年11月1日付)
2、「実施計画」は、大筋合意の際に各国の反発を抑え込むため曖昧にしたりしたものを、再交渉では協定文を変えることは避けたいため、「実施計画」という仕組みで新たな要求を認めさせようというもの
3、「承認手続き要求」とは、交渉妥結から国内批准までの間に、相手国の国内法を米国側がすべてチェックをして、協定内容を満たしていないものがあれば、法律変更するように圧力をかける仕組み。実際、ペルーやグァテマラ、コスタリカへの前例がある。
4、1993年の関税貿易一般協定(GATT)ウルグアイ・ラウンド合意を受け、主に主食用の上質の輸入米を受け入れるために国が95年から始めた入札。国が商社から輸入米を買い入れ、事実上の関税を上乗せして卸業者に売り渡す。買い入れ価格と売り渡し価格には予定価格が設定されている。
5、「経済」2016年6月号、92ページ(新日本出版社)
6、TPPテキスト分析チーム「TPP協定の全体像と問題点―市民団体による分析報告―Ver.4」50ページ
7、中野剛志「TPP亡国論」78ページ(2011・集英社新書)
8、前掲(注5)「経済」89ページ
9、前掲(注5)「経済」104ページ
10、前掲(注5)「経済」105ページ
11、ISDS条項(投資家国家間紛争解決条項)は、多国籍企業が投資先の政府を国際的な仲裁機関(裁判所)に訴えることができる仕組みのこと。仲裁機関は、世界銀行参加のICSIDやUNCITRALで基本的に米国の支配下にある。米国多国籍企業がISDS条項のある貿易協定で訴訟を乱発しており、萎縮効果があると問題になっている条項である。TPP協定の大きな問題の一つであるが、紙幅の関係上割愛する。
12、内国民待遇 相手国の国民や産品を自国の国民や産品と同等に取り扱うこと。最恵国待遇 通商条約の一方の締約国が、自国領域内で、第三国又は第三国の国民に付与するすべての待遇より振り出ない待遇を、他方の締約国またはその国民に与えること
13、行政改革委員会「最終意見」(平成9年12月12日)の士業に関する部分は以下の通りである。
「我が国には、行政書士や弁護士といった、資格名に「士」と付くものをはじめとして、数多くの資格制度が存在する。これらの資格制度には、業務独占規定が定められているものも多い。
これらの業務独占を有する資格制度は、高度に専門性のある業務や、国民の生活や安全に大きな影響を与えうる業務等に関して、試験を課すなどによって一定の資格者を定め、その規律に関して法律上で一定の規制を課した上で、業務独占を認めるものであり、これにより、一般に、サービスの質や安全性・信頼性の一定程度の高さが、制度的に担保されるとされている。
一方、こうした資格制度による業務独占には、次のような問題点があると考えられる。
一般に、参入規制と価格規制は、規制の中でも中心的なものであるが、業務独占規定は、当該資格を有しないものを市場から制度的に排除するという、参入規制的要素を色濃く持つものである。その結果、限られた有資格者が特権意識を持ち、当該資格者による特殊なムラ社会が形成されがちである。そうした市場においては、一般に競争が排除され、サービスの質が低下し、価格が高止まりしがちである。
試験に受かり、厳格な法的規律に服する、特定の名称を有する資格者が存在し、国民に良質で安心できるサービスを提供するであろうことには問題はない。しかし、その他の者を市場から事前に排除することまでは、必ずしも必要ではない。国民の教育水準も上がり、また民主化の進展や市場経済の浸透が進んだ現在においては、サービスの需要に関する選択を国民に委ねても問題のない分野が多くなってきている。権威ある有資格者が提供するサービスを好む国民は、業務独占規定がなくても資格者に依頼するであろう。無資格者であっても必要かつ十分なサービスの提供を受けられると判断する国民は、無資格者が、法律上の規律に服さないことも承知した上で、自己の責任で、そうした者に依頼すればよいのではないか。有資格者も無資格者も市場という共通の土俵で競争することによって、全体として、より良いサービスが、より安価に提供されるようになるのではないだろうか。
以上が、資格制度による業務独占に関する基本的視点であり、現在では、現行制度の制定当初に想定された業務独占の利点よりも、もはや弊害の方が大きいものもあるのではないかと考える。
特に、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士など、法律関係事務や法律に基づく書類作成・手続き等について業務独占規定を有する資格制度については、その傾向が強いのではないのだろうか。」http://www3.grips.ac.jp/~kanemoto/gyokaku/iken/
14、現行法では、外国弁護士の資格に基づく、資格取得国又は第三国における3年以上の職務経験が必要であり、その3年に、我が国における労務提供期間を1年まで算入可能となっている。
15、現行法では、弁護士と外国法事務弁護士が社員となる法人は設立できない。
16、経団連委員阿部泰久氏の発言は以下の通りである。
「まず、お聞きしたのは経団連の経済法規委員会企画部会のメンバー41社でございまして,富士通も三菱商事もお入りでございます。それから,(職務経験要件の撤廃について―筆者)積極的にやめろという意見はありませんでした。あえて言うと,そんなものどうでもいいというのが大半でございまして,我々は気にしていないということかなと思います。こういうことがあるとまずいとか,おかしいという議論は,実はございませんでした。積極的な撤廃論というよりは,そもそもこういうものはあまり気にしていないよということが大半のお答えです。」外国法事務弁護士制度に係る検討委員会、第3回議事録14ページ
http://www.moj.go.jp/housei/gaiben/housei07_00013.html
17、陳委員の発言は以下の通りである。
「まずは,細かいところはさておき,大原則を皆さんに確認したいと思います。この検討会が,前回聞いた話では,もう十何年やってきました。何のためですか。改革,緩和のためであるのは大原則であると,私はそう思っています。従いましては,今日の検討会で緩和の要否を議論するのは,これ以上は必要性がないのではないかなと思います。私は,はっきり言って緩和に賛成する立場でございます。」前掲(注16)第4回、11ページ
18、付属書10-A「自由職業サービス」において、「職業上の資格の承認、免許又は登録に関係する問題について、二以上の締約国が対話の機会を設けることに相互に関心を有する自由職業サービスの特定に努めるため、自国の領域の関係団体と協議すること」が規定されている。さらに付属書のもと「自由職業サービスに関する作業部会」の設置の可能性もふれられている(第10.9条4)。つまり継続する協議の中で、特に自由職業サービス分野の資格承認が今後起こることが予想される。(前掲(注6)テキスト分析チーム、56~57ページ)
19、前掲(注6)TPPテキスト分析チーム、125ページ