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AI時代の到来から税理士業務を考える

はじめに

 2013年のイギリスオックスフォード大学が発表した研究では、税務申告作成者(Tax Paperers)は、99%がAI技術に取って代われ、消えゆく職業のランキングで上位8位になったこと、また、昨年野村総合研究所の研究では、AI技術の代替率は、税理士が92.5%という高い数値を発表し、衝撃を与えました。
 また、2018年9月17日国際フォーラムで、衝撃的な数字の試算が発表されました。
 AIやロボットに関連した技術革新により、2025年までに現在の仕事量全体の半分が機械にとって変わられ、22年にはデータ入力や会計処理など約7,500万人の仕事が機械に奪われるとの予想を発表しました 。(※1)
 社会科学の観点で考えると、労働が機械に代替えされることで、本来であれば労働時間が短縮され、個人が自由につかえる時間が増える喜ばしいことでもあります。しかし、現在の資本主義社会では、労働者は切り捨てられ、路頭に迷う結果となってしまいます。
 私たちの税理士業界でも、ここ数年間でAI技術が導入され、レシートのスキャン、インターネットバンクやクレジットカードなどを自動で取り込み、自動で仕訳をし、帳簿を作成するクラウド会計ソフトが台頭してきました。
 そもそもAIとはなんなのか、税理士業界にとってどのような影響をもたらすのか、税理士は消えゆく職業なのか、について検討したいと思います。

1、AI時代の到来とは

(1)今日のAI技術の具体例

 9月15日に放映されたNHKスペシャル「人工知能 天使か悪魔か 2018未来がわかる その時あなたは」を見て、「AI時代はここまできたのか」と衝撃を受けました。
 今回は「未来予測」をテーマに、AI技術が現在成果を上げている具体例として、①天気予報、②アメリカでは犯罪予防捜査にAIが導入され、成果を上げている、③農業の種まき、農薬散布、収穫の時期、④タコ漁の予測、⑤心臓移植手術の適合性の判断、⑥アルツハイマー病の特徴の分析、が取り上げられていました。
 とくに、①犯罪予防捜査では、12の都市で導入され、犯罪率が低下し抑止力として機能している、とのことでした。④タコ漁の予測では、タコが好む水温データを取り込み、どこの海域にいるかピンポイントで予測をして網を仕掛ける、実証段階のようですが、仮にこの技術が確立すれば、漁船の出航前におおよその漁獲量がわかり、出荷先も確保しておけるようになるようです。これまでの想像の域を超えた漁業ビジネスになっていく可能性があります。
 AI技術が運用され、成果をあげているのを知り、改めて衝撃を受けました。
 また、私たちは、スマートフォンの普及により、AI技術の恩恵を身近に感じることができます。たとえば、iPhoneだとsiri、AndroidだとGoogleアシスタントなどで、声で「明日傘は必要ですか?」と話しかけると、「はい、明日は雨なので傘は必要です」と天気予報と合わせて回答してくれます。これらは、音声認識機能のAI技術を用いたものです。自動運転などももちろんAI技術を用いたものです。
 その他に、白黒写真をAIによってカラーに変える「Automatic Image Colorization」、AIがダイエットプランに応じた外食の献立を提案してくれる「CALNA」、江戸川乱歩の手書き原稿の識字率99.3%のOCRツール「Tegaki.ai」など、AI技術を導入した新しいサービスが次々誕生しています。

(2)AI技術とは

 AIとは、人工知能のことです。しかし、私たちが思い描いているようなAI、つまりAIが自律的に考え、思考し判断を下す、というような技術、はまだ実現されていません。
今、私たちがAIとよんでいるのは、「AI技術」のことです。AI技術とは、いうなればコンピューターのソフトウェアのことです。
 すなわち、AI技術は、すべて数式=プログラムで表現できることしかできない、という従来のコンピューターの制限を超えるものではありません。
 論理、確率、統計、これが数学の言葉のすべてであり、これが科学に使える言葉のすべて、だと新井紀子氏は述べています。AI技術はあくまでコンピューター(機械)をつかった技術です。「コンピューターはすべて数字でできています。AIは単なるソフトウェアですから、やはり数字だけでできています。数学さえわかっていれば、AIに何ができるか、そして何ができないかは、実物を見なくてもある程度想像がつくのです。」 (※2)
 コンピューターの中に、AIさんという人がいて、クラウド会計ソフトで言えば、簿記の知識に基づいて、仕訳を行うわけではありません。論理、確率、統計を使って、また、ディープラーニングを通じて、行っているにすぎません。
 このようにAI技術はすべてのことを、機械が人間と同等のことができる、ということではありません。未だに、AI技術では、人間のできることの99%はできないと言われています。

(3)AIブームの歴史

 では、なぜここ数年で急激にAI技術が導入されるようになったのでしょうか。AIの歴史を振り返ってみましょう。
 第1次AIブームは、1950年代後半から1960年代まで、「推論と探索により問題を解く研究」が盛んに行われていました。複雑な迷路やパズルを解くことに研究者は熱中し、それを実現させました。その延長線上にチェスの世界チャンピオンに勝って世界を驚かせた「ディープブルー」が生まれることになります 。(※3)しかし、病気を診断し、治療法を提示するといった複雑なことはできませんでした。
 1980年代から第2次AIブームが始まります。コンピューターに専門的な知識を学習させて問題を解決するというアプローチが盛んになりました。ある問題に特化したAIの作成、「エキスパートシステム」です。あらかじめ決めておいたルールの元で推論と探索をおこなうもの、たとえば、法律の知識を学習させ、弁護士のようなその分野のエキスパートにように振る舞うことができるシステムです 。(※4)しかし、弁護士は法律や判例の知識だけで仕事をしているのではなく、社会の規範や常識、人間の感情といったものを総合的に判断して最善策を考えていますが、エキスパートシステムには、その「常識」や「感情」を学習されることができず、行き詰まることになります。
 そして、現在の第3次AIブームが到来しました。1990年半ばに検索エンジンが登場し、インターネットが加速度的に広がり、ウェブ上に大量のデータが飛躍的に蓄積されました。これらを背景に、機械学習の一つである「ディープラーニング」という統計的な方法論が導入されました。
 たとえば、画像の「物体検出」、イチゴが写っている写真を見せたら、「イチゴがここに写っています」と答えられるようにするAIを例にあげます。
 私たち人間は、熟していない薄い色のイチゴ、つぶれているイチゴでも、それまでの経験から柔軟にイチゴだと判断できます。しかし、機械(AI)は、この柔軟性がありません。そこで、イチゴが含まれた様々な画像を大量に集め、イチゴの特徴を数値化し、AIにイチゴに特徴を教える「教師データ」を人間が作成し、コンピューターにその特徴値を超えるものがイチゴだと判断させる方法がとられていました。これは、膨大な労力とコストがかかります。
 ディープラーニングは、どの特徴に目をつけるのかということ自体を機械(AI)に検討させる技術です。一定の枠組みのなかで、十分な量の教師データを準備すると、人間が特徴づけていたものを、AIがデータに基づき調整していくことで、低コストでこれまでと同等かそれ以上の正解率にたどりつく、というシステムです。この機械学習の実用化には、パソコンの処理能力が向上する、デジタルデータが低コストで入手できる、インターネット上に無数のデータが存在する時代でなければ実現することはできませんでした。
 現在の第3次AIブームは、これまで理論的には実現できるが、その基盤が整っていなかったため実現できなかったことが、実現できるようになってきたことから生まれたものです。
 AI技術はあくまでも、ソフトウェアであり、私たちの「道具」の一つです。ブラックボックスでもなんでもない、このことを理解することが大切です。
 ブームと技術の記述は、新井紀子『AI vs教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)の要約となります。これ以上紙幅の関係で割愛しますが、ご興味がある方はご参照ください。

2、AI技術と税理士業務の特徴

(1)AI技術と事務作業

 私たち税理士業界にも、AI技術導入の波が押し寄せています。それがクラウド会計ソフトです。
 たとえば、マネーフォワードでは、過去の取引データと仕訳データの組み合わせを機械学習させることでアルゴリズムを作成し、自動仕訳を実現しているようです 。(※5)
 これが税理士業界にどのような影響を及ぼすのか、具体的な税理士の事務作業の特徴から検討してみたいと思います 。(※6)
 私たち税理士の事務作業を分類すると、基本的には、①帳簿作成などの会計実務、②それをもとにした税務書類の作成、に分類されます。
 現在、クラウド会計ソフトは、①には対応し、②の部分まで対応しているものが増えてきています。

①記帳業務とAI技術
 記帳業務は、基本的に、①日付、②勘定科目、③金額、④摘要、⑤消費税の課非判定、の5つの項目を判断しパソコンに入力します。摘要項目以外は、日付、金額は数字そのものですし、勘定科目、課非判定も附番されているわけですから、基本的には数字入力です。「摘要」だけが唯一問題となっていますが、一般の会計ソフトでも、科目に紐付けた「摘要登録機能」などで附番できるため、原則的には5項目すべて数字で入力できます。
 そして、仕訳自体は、「○○だったら仕入」「○○だったら旅費交通費」というように、反覆的で、一定の法則性に則っています。
 つまり、仕訳は数字で表現でき、反復的で一定の法則性がある、という特徴があるため、IT化がしやすい、コンピューターと相性が抜群である、という性質を有していることになります。手書きの記帳の時代から、会計ソフトが導入され、記帳に割く時間が短縮されました。IT化しやすいのであれば、AI技術を導入しやすいのも当然です。したがって、記帳業務は、AI技術と非常に相性がよい分野と言えます。

②申告書作成とAI技術
 法人税、所得税の申告書(※7)は、会計分野の数字が確定してしまえば、あとは申告書に該当部分を転記し、調整を行うだけです。そして、申告書のなかでも数字が転記され、連動し、税額が算出されます。法人税だけでみても、欠損法人数は28年度で法人全体の63.5%等の数字から考えてみると、町場の税理士が特殊な申告書を作成する割合は少ないと思われます。
 消費税も会計分野で課非判定を行っていれば、自動的に申告書作成まで行われます。会計ソフトは、消費税の申告書作成機能がついているものがほとんどです。
 申告書の場合は、税額を算出するまで、加算・減算・掛け算・割り算を行っていくだけです。
 現在の税制は複雑化していますが、その判定等の条件さえと整えれば、プログラムは優秀です。
 これまででも、AI化までいかずとも、コンピューターで、所得税・法人税・消費税は、会計から税務申告書の作成まで、連動しているソフトが多数あります。
 現在のクラウド会計ソフトに関連するサービスとして、AI技術を利用した所得税の確定申告書の自動作成はもちろん、法人税申告書作成ソフトへのデータ連携のサービスが開始されています。
 これまでの会計ソフト、税務ソフトは、コンピューター化、IT化によって、かなりの合理化が進んできました。それが、AI技術を応用できる土台を作っていたと言えるでしょう。今後、税理士法との関係でどのようになっていくのかはわかりませんが、技術的には自動作成が可能なレベルになっていると言えます。
 AI技術は、私たち税理士が「単なる申告書作成代行者」ととらえた場合、代替え可能な職業である、という厳しい現実を示しています。

(2)記帳代行の割合

①記帳代行はなくなる?
 それでは、会計事務所の未来はどのような形になるのでしょうか。
 「未来では、税務申告作業はロボットやAIが行うものであって、人間はそのチェックを行う監督者としての立場のみが残る世界になる、ということを相続する。税理士事務所であれば、職員が作成して税理士先生がチェックをしていたものが、ロボットが作り、税理士先生が押印する。税務申告作成のためのデータがすべて整っていれば、そのような自動化は可能であろうと相続することは難しくない。税務申告書の構造は極めてルール化されたものであり、投入要素が同一であれば、同じ結果になるように作られていて、作り手によって税額が異なることは課税の公平上そもそも想定されていない。よって、データとルールという軸で考えれば、当然の帰結かと思う。」(※8、9)
 私たちの頭のなかにぼんやりとではありますが、このような未来が見えてきているのではないでしょうか。
 全国青年税理士連盟が2017年11月18日に「人工知能(AI)活用・開発状況に関するアンケート結果について」(※10) を公表しました。主なクラウド会計ソフト運営会社に質問し回答を得たものです。そのなかで、「記帳代行作業についてAIを活用することにより、どの程度作業時間の効率化、省力化が進むか」という質問があります。弥生会計は「早いタイミングで”入力”業務はなくなり、”確認”に変わると考えています」、MFクラウドは「少なく見積もって(5年後に)50%程度。10年後、20年後については、OCR機能の改善により紙帳票も含めて自動取得が可能になるため、記帳代行は特殊な税務上のチェックが必要になるもの以外はほとんど自動化できると考えている」、データ通信は「5年後70%、10年後50%、20年後0%」と回答しています。
 これらの回答を見ると、クラウド会計ソフトの開発会社は、記帳代行業務については、5年で50%が自動化され、20年後にはほぼなくなると予想しています。
 これが現実となれば、会計事務所の収益の柱である記帳代行業務が失われることになります。
 もちろん、すべての記帳代行業務がなくならないとは思いますが、このような流れは止められないと考えます。

②中小企業における記帳代行の割合
 そこで、私たちの主な顧問先となる中小企業における記帳代行の実態からその影響を試算してみたいと思います。
 2015年3月に、中小企業庁から「平成26年度中小企業における会計の実態調査について」という資料が公表されました。(862社が回答)
 そのなかの一つの設問に、「経理事務の状況」があります。図がその割合です。

 中小企業のうち、24.7%、およそ4分の1が記帳代行を依頼しているというデータです。
 現在、中小企業者数は、381万者と言われています。当該調査は、法人を対象としていますが、個人事業者も同じ割合だと仮定して単純計算をすれば、95万者の記帳代行業務が失われる可能性がある、ということです。
 サンプル数が三桁というものですから、どの程度正確性が担保されるかは難しいところです。ただ、AI技術の導入とあわせて、中小企業の減少傾向、経済状況の悪化などの諸事情を鑑みると、記帳代行業務が、会計事務所の収益の柱から消えていく日は近いのかもしません。

(3)AI時代到来からも時代遅れの業務独占権

 私は、昨年の下関全国研究集会で東京会チームの一員として「税理士法―憲法から考える税理士のすがた」を発表しました。そこで、税理士法に定められる業務独占権のあり方について、そもそも無償独占という考え方自体が問題であり、税務相談、税務書類の作成及び税務代理のうち、税務代理のみを有償独占とすべきだ、という見解を発表しました。
これを「AI時代の到来」という観点から簡単に検討したいと思います。

①税務相談について
 冒頭で触れたスマートフォン(iPhone)のsiriのアプリを使って、「相続税の申告の仕方を教えてください」と話しかけると、該当する国税庁のホームページや詳しく解説している税理士のブログ、ホームページを紹介してくれます。
 また、国税庁は「税務行政の将来像」のなかで、AI技術を用いて自動的に質問に回答するシステムの開発を進めると記述しています。
 今日、インターネットが発達し、法律の条文はもちろんのこと、国税庁のホームページには関連する通達まで一般の人たちでも気軽に見ることができます。一部の限られた専門家がそれらに触れることができる、知識を得ることができる時代ではありません。一定のレベルまでは、インターネットやAI技術によって代替えすることができると言えるでしょう。それでもわからない複雑なものなどは税理士に報酬を払って相談すればよいだけです。
 「AI時代」という観点から見ても無償独占は時代遅れですし、それ以前に、税の知識がある友人や知人に相談したりすること等が違法という考え方そのものが問題です。

②税務書類の作成について
 帳簿作成から、決算書の作成まで、AI技術、RPA(※11)を用いれば自動的に作成できてしまう時代となっています。この事実だけでも、無償独占とすることに無理があります。もちろん、他の税法もありますから一概には言えませんが、いまでも、「リスクマネジメントはいいから、とにかく安くしたい」場合は、自動作成サービスを、「プロにしっかりと作成してもらいたい」場合は、税理士に依頼するとなっていますし、今後その傾向は加速していくと思います。AI時代の到来との関係で考えると、この税務書類の作成を独占業務とすることも、無理があるのではないでしょうか。

③税務代理について
 税務代理は、AI技術がどれだけ発達しようとも、プログラムがどれだけ複雑高度なものに対応できるようになったとしても、コンピューターソフトに交渉することはできません。AI時代の到来に、大きく影響を受けないものです。
 ただ、根本的に税務代理は、有償独占にすべきであり、民法の規定にそって税理士以外の人が無償で代理人として交渉にあたることは何ら問題がないのではないかと考えます。

 下関全国研究集会における東京チームの結論は、税理士業務を無償独占とする規定が、倉敷民商事件などを生み出していることから、弾圧立法として機能している問題点を掘り下げました。これを基本としながら、AI時代の到来という視点で簡単に検討しましたが、やはり時代の発展からみても、無償独占という考え方自体が、時代遅れと言わざるを得ないでしょう。

3、AI時代に求められる税理士の役割

 それでは、このAI時代の到来のなかで、税法の専門家としての税理士はどのような役割を担っているのでしょうか。また、冒頭の研究結果のように税理士は、消えゆく職業なのでしょうか。

(1)国税庁はなにを狙っているのか

 国税庁は、「税務行政の将来像」(以下「将来像」)を2017年6月に突如として発表しました。
 税調、国税審議会は、韓国やエストニアなどに視察に赴き、税務行政のICT化を研究しています。そして、「将来像」を発表し、他国に習いながら、マイナンバー等を活用して国民の情報を把握すること、それらの情報をAI技術で解析し多様化した国民の所得を把握すること、そして、これらに基づいて課税強化を進めていくことを宣言しました。
 この「将来像」のなかには、AI技術を通じて、税務調査等の合理化も進められようとしています。法的根拠のないお尋ね文書等の行政指導を郵送し、机上の調査から実地の調査になし崩し的に移行する「ハイブリッド調査」が問題となっていますが、それをさらに、全納税者規模で、AI技術を使ってe-taxやマイナポータル宛に乱発しようとすること等が計画されています。
 国税審議会の田近会長は、雑誌のインタビューのなかで、所得税については、税額まで記載された「記入済み申告書の形成をめざしたいところです」(※12)と述べています。国税庁は、10年、20年の単位で、ICT化やAI技術を駆使して、 申告納税制度を形骸化しようとしていると考えられます。

(2)税務調査とデータ

 これまで述べて生きたように、税理士業界におけるAI技術が導入されるのは、記帳代行と申告書作成業務です。そうすると、そこに利用されるのは、クラウド会計ソフトということになります。
 AI技術を利用したクラウド会計ソフトの一番の問題は、帳簿データがサーバーに保管されていることです。つまり帳簿の所有権が事業者にない、ということが一番に問題となってきます。
 今後、どのようにクラウド会計ソフトが税務調査で取り扱われるかはわかりません。
 たとえば、銀行の融資審査にクラウド会計ソフトの利用が開始されています。銀行がクラウド会計ソフトのデータにアクセスし、財務状況を確認し、当日に仮審査の結果を確認するというサービスです。(※13)
 可能性の問題ですが、税務署が銀行に事前調査、反面調査に入った場合、預金情報だけでなくクラウド会計ソフトに関する情報を有しているかどうかを質問し、帳簿データを入手する、というパターンもありえる、ということです。
 「AI時代の到来」に伴って、今後予見できない新しい問題が発生してくる可能性があります。私たち税理士が、国税通則法をしっかりと学ぶこと、憲法を学び納税者の権利を主張していく、などのことがこれまで以上に重要になってきます。

(3)税理士は消えゆく職業か

①単なる「税務申告作成者」は生き残れない
 これまで検討してきたように、AI技術の導入により、会計事務所の収益の柱であった記帳代行業務は激減していきます。また、申告書作成業務もその割合は減少していくと考えられます。そして、国税庁は、ICTやAI技術を用いて、納税者の情報を入手・分析ようとしています。
 「AI時代の到来」のテーマで考えたとき、税理士の仕事・役割という本質的部分に、光をあてることなしに、税理士の日本社会のなかでの存在意義は見えてこないと思います。
 税理士が、単なる「税務申告作成者」のままであれば、自動で帳簿・申告書を作成してくれ、しかもコストが安いクラウド会計ソフトに流れるのは当然です。歴史からみても、代替えできることしかできない職業は時代に淘汰されざるを得ません。

②日税連の方向性
 税理士は消えゆく職業なのか。それは、私たち税理士自身の「使命」を日税連、各税理士会がどのように捉え、行動するのかが大きな鍵を握っていると考えます。
 現在、日税連は税理士の社会的地位の向上を指針の一つに掲げ、その主要な柱として租税教育を推進しています。現場で民主主義と税金などをテーマに奮闘されている税理士の方々もいますが、基本的な国税庁のスタンスは、権力側、徴税側の立場から税金を国民に理解させるものです。この活動を評価するのはあくまでも国であり、納税者ではありません。
 日税連は、自ら国税庁の下請機関として機能することで、税理士の地位を向上させようとしています。誰のための税理士なのか――日税連会長が、首相と握手している写真をホームページに掲げているようでは、権力側の団体だとアピールしているようなものです。
 このような方向で、税理士の社会的地位が本当に向上していくと考えているなら、完全にベクトルを間違えていると考えます。

③格差社会のなかでの税理士の役割
 よく税理士への不満の一つに「税務調査で納税者の立場に立たず、税務署に同調する」という声を耳にします。
 税理士は、その登録したその瞬間から、納税者=国民の代理人として、国家権力と対峙せざるを得ないという、士業のなかで唯一の特徴を持っています。また、税理士に報酬を払って申告を行う納税者は、一定の所得がある階層です。しかし、現代日本は格差社会が広がっています。ますます税理士は、多くの国民・納税者から遠い存在になってしまっているのではないでしょうか。
 私は、現在、税理士のボランティアで運営する滞納相談センターの相談活動に携わっています。格差社会のなかで、滞納者が増えるとともに、とくに地方自治体からの人権や法律を無視した滞納処分が増加していることを実感しています。「給与を全額差し押さえられた」「月5万円以上でないと分納は認めない」などの無茶苦茶な内容に加え、滞納者に人権はないなどと言わんばかりに、高圧的な対応に終始する担当者もいます。滞納相談センターに連絡し、「もう税金も払えないし死ぬしかないと思っていた」という女性の方もいました。
 税理士が納税者=滞納者の代理人として、地方自治体に一本電話連絡をし、憲法遵守や判例などを伝えるだけで解決する例も多くあります。
 私は、このような活動など税理士が社会的に果たす役割は、まだまだたくさんあるのではないかと思います。
 日常的には、税務調査で納税者の代理人としてその権利を守るために税務署と対峙する、税制の改革でも、大企業優遇税制ではなく、国民のための税制に変革する提言を打ち出していく、このような取り組みこそ、税理士の役割なのではないでしょうか。
 ある税務署OBの新人会の先輩が「すべての税理士が、納税者の立場に立って税務署とたたかえば、日本は変わる」と述べられていました。
 AI時代が到来し、会計事務所のあり方も大きく変化していきます。税理士という職業が日本社会のなかで必要とされ、生き残っていくには、納税者の代理人として、納税者の立場に立ち、権力に対峙していく、この道しかないと思います。裏を返せば、社会的に必要とされている税理士の役割とは、このようなものではないのでしょうか。

 おわりに

 技術革新や機械化のなかで多くの職業が奪われてきたのは、歴史が証明するところです。「AI時代の到来」という観点から税理士業務を検討してみても、やはりたどり着くのは、税理士の使命、役割をどのように捉えるのかということでした。
 狭い視野に陥らず、税理士の未来について、私たち自身も議論を進めていく必要性を改めて感じているところです。

1、時事通信2018年9月18日https://www.jiji.com/jc/article?k=2018091800799&g=int
2、新井紀子『AI vs教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社、2018年)52頁
3、前掲注2、25頁
4、前掲注2、27~28頁
5、https://tech.nikkeibp.co.jp/it/atcl/news/17/072702002/
6、今回検討の対象とするのは、税理士・会計事務所の収益の柱である顧問料、決算料、税務調査の立ち会いに関連する法人税、所得税、消費税に限って検討します。
7、国税庁の調査(平成28年度分「会社標本調査」によれば、欠損法人数(所得が負又はゼロである法人)は、168万社で全体の63.5%となっています。特殊な決算書を作成する割合は少ないと考えられます。(https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2017/kaisha_hyohon/index.htm
8、橋本純「AI時代の「税務サービス」に対する考え方」税務弘報2018年1月号、94頁
9、ただ、一方で「AIが入ってくることで一番失われる仕事は何かというと、「真ん中の人間だ」というのを聞いたことがあります。会計事務所でいうとひたすら入力をしている、いわゆる一般事務の仕事はかえって残る。弁護士でいうと、いわゆるボス弁はのこるでしょうし、パラリーガルも残るでしょう。けれども、真ん中にいるイソ弁たちの仕事はごそっとなくなるのではないかというのも、なんとなく理解できます。」(座談会「AI時代の税理士の生き残る道を語ろう」税務弘報2018年1月号、151頁)という見解もあります。
10、全国青年税理士連盟ホームページ http://www.aozei.com/houtaisaku-results-ai.html
11、Robotics Process Automationのこと。アプリケーションをまたぎ作業をすること。たとえば、帳簿データをExcelにはき出して、これを申告書作成用のソフトに転記するといった作業を自動で行う技術。
12、「国民に開かれた税務行政のためにICTの推進を」時評2018年4月、時評社、49頁
13、例えば、横浜銀行など https://tech.nikkeibp.co.jp/it/atcl/news/16/121903785/